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キャッチボール屋CHAOS

会社をリストラされ、一時帰郷したタカシは高校時代の野球部の仲間と飲み、恋心を寄せていた恭子が結婚したことを知る。酒の勢いも手伝い、東京行き最終電車に乗ったタカシだったが、目覚めた場所は都会の公園。そして、突然、紳士から声をかけられ、10分100円でキャッチボールをする「キャッチボール屋」を引き継ぐことになる。

直径約7センチ、重さ約140グラムのボールをグラブで捕っては投げ、また捕る。言葉を交わすわけでもないのにお互いの気持ちがなんとなく通じ合っていくのがキャッチボールの魅力だ。そんなキャッチボールのリズムと、ボールがグラブに収まる乾いた音が耳に心地よく響いてくる映画である。主人公は、ひょんなことから東京の一角にある公園で10分100円でキャッチボールをする仕事を任されることになった男。会社をリストラされ、思いを寄せていた女性も結婚してしまった、いわば人生の“負け組”である。公園にキャッチボール目当てにやってくる常連客がまたユニークだ。甲子園で果たせなかった思いを未だに引きずる男。昼時に公園にきては何かと声をかけるOL。おしゃべりな借金取り。大きな体をもてあますように公園のベンチに座ってキャッチボールを見つめるサラリーマン。キャッチボールに父子の理想の姿を見る中年男性…。彼らとのユル〜い交流を通して再生していく主人公の姿が淡々と描かれる。

主人公を演じるのは、これが単独では初主演となる大森南朋。『ヴァイブレータ』『殺し屋1』などアクの強い役にもリアリティを与えられる稀有な俳優であり、今回も朴訥とした雰囲気が映画全体の空気をつくっている。彼が出会い、キャッチボールをする相手がまた個性派俳優ばかり。ヒロインには『パビリオン山椒魚』等に出演し、歌手としても活躍するキタキマユ。ジャージ姿で登場するのは今や“日本の兄貴”的存在の寺島進。さらに『血と骨』の松重豊、『ハッシュ』の光石研、『カナリア』の水橋研二ら。映画監督の庵野秀明も出演。彼らのボールを受ける大森南朋は全シーンに出演しており、その意味ではこの映画は大森×寺島進、大森×キタキマユ、大森×松重豊、大森×光石研といった1対1の演技を堪能できる作品でもある。キャッチボールはまさに心と心の、そして演技と演技のやりとりの風景でもあるのだ。監督は北野武、竹中直人、諏訪敦彦といった監督の助監督を務めてきた大崎章。構想5年をかけた満を持してのデビュー作である。

商品詳細

おおもり なお

96年、市川準演出のCMで一躍注目されたのをきっかけに本格的に役者活動を開始。以来、数多くの注目作に出演し、今や、日本映画に欠くことのできない若き名優。代表作に『殺し屋1』『ヴァイブレータ』『アイデン&ティティ』『ゲルマニウムの夜』他。1972年生まれ。

── 意外なことに大森さんはこの作品が映画初主演です。

大森 そうなんですよ。でも、映画の撮影に入るときは、主演だからとか、小さな役だからってことはほとんど意識しないです。『キャッチボール屋』もチラシに“初の単独主演”と書いてあったのを見て、そこでようやく気づいたくらいです(笑)。それに今回の僕はいろんな登場人物を回していく役まわりだし、役のキャラクター的にも積極的に何かを進めていくというタイプでもない。周りの人の話を聞いて考えたり、行動したりする役でしたから、よけい主演という意識は薄かったのかもしれません。

── 大森さんが映画を選ぶ基準は何ですか。

大森 自分が興味のある作品に出たいとは思います。でも、その興味の対象は脚本であることもあるし、キャストや監督さんである場合もあって一概には言えないです。まあ、カンですかね(笑)。『キャッチボール屋』の大崎(章)さんとは助監督の頃からの知り合いで、こういう構想の作品があるということはかなり以前から聞いていました。それが、やっと今回実現したわけです。

── 大森さんが演じたタカシという役をひと言で言うと?

大森 僕の思う感覚で言うと、“ダメな大人”ですかね(笑)。でも、それは否定的な意味ではなく、愛すべき人物ということでもあるんですけど。

── 共感できる役でしたか。

大森 自分としては受け入れやすい役でした。ちょっと記憶もなくて、何をしていいかもわからない。それが途中で、妙にやる気を出したり…。もちろん、現実の僕との距離はあるわけで、その距離をどうつめるかを考えました。ただ、僕自身も、ああいう中途半端な時間というのは経験しているわけです。たとえば、何もすることがなくなってしまった1日とか……そういうときの感覚を思い出したりしました。

── 元高校球児の役ですが、大森さん自身、野球の経験は?

大森 中学のときに野球部でした。補欠で、試合に出たときの打順は2番や7番。ポジションは外野。その意味では、この映画のタカシとよく似ていますね。

── いろんな人とキャッチボールをされていますが、一番うまかったのは誰ですか。

大森 撮影の合間もキャッチボールをしたんですが、寺島(進)さんが一番うまいですね。今でも草野球をやっているそうです。映画の打ち上げでスタッフ対キャストで試合をしたんですが、僕たちが勝ちました。そのピッチャーが寺島さんです。

── ご自分で印象に残っているシーンを教えてください。

大森 夜の野球場で、僕が寺島さんに昔の新聞を渡すシーンです。あのシーンは当初はもっとたくさんのカットを撮る予定だったんですが、結局、引きで撮った本番一発で終わりました。僕自身、演じていてグッとくるシーンでしたし、そのときの空気が出来上がった映画にも出ていると思います。

── 最後に、この映画の見どころを語ってください。

大森 難しいなあ…。「微妙に変わっていく男の生き様を見ろ」ってトコでしょうか(笑)。世代や性別を問わず、見てもらえる作品だと思います。たまたま見てくれた友達は「キャッチボールしたくなったよ」と言ってくれました。もし10年後、誰かが「『キャッチボール屋』を見たよ」って言ってくれたら、すごく嬉しいですね。