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息もできない

愛を知らない男と、愛を夢見た女子高生。傷ついた二つの魂の邂逅

偶然の出会い、それは最低最悪の出会い。でも、そこから運命が動きはじめた......。「家族」という逃れられないしがらみの中で生きてきた二人。父への怒りと憎しみを抱いて社会の底辺で生きる男サンフンと、傷ついた心をかくした勝気な女子高生ヨニ。純愛よりも切ない二人の魂の求めあいを、息苦しいまでにパワフルに描き、プサン国際映画祭でワールドプレミアされるや観客・批評家の熱狂を呼び、ロッテルダムはじめ世界の映画祭・映画賞で、25を超える賞に輝いた本作。韓国では、主人公の運命に涙する観客が続出し、インディーズとして異例の大ヒットを記録した。2009年11月に開催された第10回東京フィルメックスでは、史上初の最優秀作品賞(グランプリ)と観客賞をダブル受賞し、日本の映画ファンに鮮烈な印象を与えた傑作がついに公開となる。

製作・監督・脚本・編集・主演、5役をこなしたヤン・イクチュン、鮮烈なる魂の映画

本作は、俳優として活躍してきたヤン・イクチュン初の長編監督作品。「自分は家族との間に問題を抱えてきた。このもどかしさを抱いたままでは、この先生きていけないと思った。すべてを吐き出したかった」。そんな切実な思いから脚本を書き始め、自分で資金を集め、製作にこぎつけた。自身の感情のありったけを注ぎ込んだ主人公サンフンを演じるのは、もちろん自分だ。途中、製作資金に困って家を売り払いさえした。そこまでの思いでつくりあげた『息もできない』は、まさにヤン・イクチュンの魂そのもの。物語はフィクションでも、映画の中の感情に1%の嘘もない、という。だからこそ、観客の胸を激しく揺さぶる。

「家族」の中に、韓国の歴史の哀しみまでを描写する

すべてを吐き出したかっただけ。ただ自分が見たもの、感じてきたものを書いた。ヤン・イクチュンは、そう語るが、映画の中には、韓国の家族が経験しなければならなかった歴史の哀しみまでもが深く流れている。さらに目をみはるのが、これが長編デビューとは信じがたい映画の完成度である。漢江での名シーン、回想のフラッシュバック、ふと挟み込まれる俯瞰ショット...脚本、キャメラ、編集のすべてにおいて、自身の感情を、大きな運命の歯車がきしむ普遍的な悲劇として描ききる天賦の才能は圧倒的だ。初作品にして「正真正銘の最高傑作!(」ニューヨーク・タイムアウト誌)との称賛は決して大げさではない。

スタッフ・キャストの運命的ともいえるアンサンブル

本作で数々の女優賞に輝いたヨニ役のキム・コッピ。ヨニの弟でサンフンの運命を決定づけるヨンジェを演じたイ・ファン。彼ら二人は、ヤン・イクチュンとは初顔合わせで当初第一候補ではなかった。しかし、スクリーンでの見事な存在感を見れば、これは「運命的」ともいえるキャスティングだったと誰もが感じるだろう。その他は、いずれもヤン・イクチュンが信頼するキャスト・スタッフ。サンフンの父親を演じるパク・チョンスン、先輩役のチョン・マンシクはいずれも舞台をベースに活躍する名優、美術のホン・ジは『マジシャンズ』で知られる。中には、「技術は上達する。だから心が大事だ」と心を買われたスタッフもいた。『息もできない』は、技術よりも魂でつくらなければならなかった映画なのだ。

二人でいる時だけ、 泣けた。

男が女を殴っている。 そこへ、別の男が現れ、何も言わずに
女を殴っていた男を殴り倒す。 女を助けたかと思われた男だったが、 女に唾を吐き、その頬を叩きはじめる。
「お前は殴られてばかりでいいのかよ」。 女を罵倒する男の後頭部に、 殴り倒された男からの反撃の一発。


年上の友人マンシク(チョン・マンシク)が経営する債権回収業者で働いている取り立て屋のサンフン(ヤン・イクチュン)。暴力的な取り立てだけでなく、ストライキを暴力で潰したり、屋台の強制撤去をしたり、その手加減のない仕事ぶりは、仲間さえも怖がらせている。
そんなサンフンだが、姉の息子、甥のヒョンイン(キム・ヒス)のことは、かける言葉は乱暴だが可愛がっていた。姉はサンフンとは母親が違う。夫の暴力に苦しんで離婚し、まだ幼いヒョンインはいつも寂しい思いをしていたのだ。 ある日、サンフンが通りを歩きながら唾を吐くと、偶然そこに通りかかった女子高生ヨニ(キム・コッピ)の胸元にかかってしまう。気の強いヨニは、サンフンにひるまず文句をつけ、二人は喧嘩になり、ヨニはサンフンに殴られて気を失う。しかしヨニが目を覚ますと、サンフンはまだいた。彼女が気づくのを待っていたのだ。ヨニはサンフンにビールをおごらせる。歳は離れているものの、互いの中に、二人は何か引き合うものを感じた。
サンフンの父スンチョル(パク・チョンスン)が刑務所から出所してきた。かつて父は、母に暴力をふるいつづけ、それが元で、妹と母を死なせた。サンフンは以来、父に憎しみを抱きつづけて生きてきた。出所した父の家を訪れるが、一言もなく、ただサンフンは父を殴った。
一方、ヨニには、ベトナム戦争から帰還したが精神的な後遺症で仕事もできなくなった父がいる。母は、そんな父に代わって屋台で働いていたが、屋台の強制撤去にあい、その最中に暴力団のような連中に撲殺されてしまった。父は母が死んだことも理解できず、家にいない母を罵倒したり、ヨニが自分を殺そうとしてると言って、ヨニの心を傷つけるばかりだった。弟のヨンジェ(イ・ファン)は、高校にも行かず、毎日ヨニに金をせびり、暴力的な態度で姉を脅し、父と喧嘩しては荒れている。

そんなある日、サンフンは、ふたたびヨニに出会う。すぐに人を殴りそうなサンフンにも、ヨニはものおじせず、からかうように言葉を浴びせる。そんなヨニの態度に、なぜか心が和らぐサンフン。
サンフンと取り立てのコンビを組むのは、若いファンギュ(ユン・スンフン)だ。ある日、サンフンとファンギュが取り立てに行った家で、夫が妻に暴力をふるっていた。それを見たサンフンは、その夫を殺しかねないほどに殴りつづけた。「人を殴るやつは、自分は殴られないと思っている。韓国の父親はサイテーだ」。
ある時、いつものように甥のヒョンインに会いに行ったサンフンは、ヒョンインが友だちに、父親がいないことでからかわれているのを見る。ヒョンインの傷ついた心を慰めたいサンフンはヨニに電話する。サンフンからの電話に、すぐに学校を抜け出すヨニ。サンフンとヨニとヒョンイン、それぞれに寂しさを抱えた三人は、短いけれど楽しい時間を過ごす。ヒョンインを家に送った帰り道、ヨニはサンフンを誘って屋台に行く。ヨニは「私の母も昔、屋台をやってたの」と話す。初めて本当の名前を名乗りあう二人。けれど、ヨニは「家が普通すぎて、つまらない」と、嘘をついた。

サンフンとコンビを組んでいたファンギュが、友人のヨンジェを事務所に連れてきた。ヨンジェがヨニの弟であることを知らないまま、サンフンは一緒に仕事を始める。家では暴れていても、外では堂々と振る舞えないヨンジェは、腰抜けとサンフンになじられる。
ある日、サンフンは姉が父の家を何度も訪れ、ヒョンインにも会わせていることを知る。心にわだかまりを感じるサンフンは、マンシクに、親がいるだけでいい、父親を理解しろと進言されたことで、かえって怒りを爆発させ、父の家へ向かい、父を殴りつづける。その時、扉が開き、父を殴るサンフンをヒョンインが見つめた。
サンフンの取り立てがいっそう激しくなった。弱腰のヨンジェを、罵倒し、殴りつける。ヨンジェは、サンフンへの怒りを爆発させるように、ヨニに暴力をふるい家を飛び出す。ヨニはすべてがイヤになり、父に向かって激しく罵り、泣叫ぶ。そして興奮した父親が包丁を握りしめた......。
一方、姉の家を訪ねたサンフンは、父と姉、甥のヒョンインが仲むつまじくする姿を見る。その夜、またしてもマンシクに説教され、荒れに荒れたサンフンは、「ぶっ殺してやる」と叫んで父の元へ走った。そこでサンフンが見たもの。それは手首を切って自殺を図った父の姿だった。父を背負い、家を飛び出すサンフン。あの日、父に刺された妹を背負って走ったように。病院にかつぎこまれた父はサンフンの輸血によって助かった。サンフンはヨニに電話をかける。

漢江。その岸辺。心を傷だらけにした二人が肩を並べる。何もなかったかのようなフリを続ける二人。しかし、ふと、サンフンはヨニの膝に頭をつけた。ひざまくらで、仰向けに寝転がり、目もとを腕で隠すサンフン。嗚咽がしだいに大きくなる。いつしかヨニも泣いていた。

久しぶりにヒョンインに会いに行ったサンフン。いつものように振る舞うが、ヒョンインはぎこちない。「お祖父ちゃんを殴るな。パパもママをあんなふうに殴ったんだ!」。心から振り絞るように叫ぶヒョンインに、サンフンは、かつての自分を見た。
サンフンは、変わろうとした。マンシクにこの仕事を辞めると告げる。マンシクもサンフンの決意に、自分も事務所を誰かに譲り、焼肉屋でも開こうと言う。サンフンは、ヒョンインの学芸会に来いとマンシクを誘った。そこで紹介したい人がいる。自分も仕事を片付けたら行くつもりだと。サンフンは、ヨニに電話して、学芸会に来るように言った。

サンフンの最後の仕事。それはヨンジェと一緒だった。この仕事さえ無事に済めば、サンフンは新しい人生を歩めるはずだった......。

製作・監督・脚本・編集・主演サンフン役
ヤン・イクチュン


1975年生まれ。商業高校を卒業し、数々の職を経験した後、21歳で兵役に就く。除隊後、演劇を学び、その後、アクターズ21アカデミー(演劇俳優によって設立された学院)を経て、映画の道に進む。チョ・グンシク監督作品『品行ゼロ』(02)、チョ・ミノ監督作品『強敵』(06)、ソン・ヘソン監督作品『私たちの幸せな時間』(06)といった長編映画のヒット作にも小さな役で出演しているが、作品評価の高い多数の短編映画の主演を務め、韓国インディーズ界で信頼される存在となる。日韓合作の3話オムニバス映画『まぶしい1日』の第1話「宝島」や安藤大佑監督の短編作品『けつわり』にも出演。『けつわり』は、昭和18年の福岡の筑豊地方を舞台にした映画で、ヤン・イクチュンは飛行機代のみのノーギャラで主演を引き受けたと言う。2005年に短編映画「AlwaysBehindYou」を初監督し、自ら主演。同作品はソウル・インディペンデント短編映画祭での観客賞をはじめ、国内の数々の映画祭で受賞し、監督としても注目を集めた。その後、さらに2本の短編を監督。本作『息もできない』で初の長編に挑戦。家を売り払ってまで製作費にあてるなど、多くの困難を乗り越えて完成させた。韓国の映画監督としては珍しく、映画学校で学んだり、助監督として経験を積んだりせずに監督となったが、その驚くべき才能でロッテルダム国際映画祭タイガー・アワード(グランプリ)、東京フィルメックスの最優秀作品賞(グランプリ)と観客賞はじめ各国で25を超える賞に輝いた。俳優としての次回作は、チ・ジニと共演の『家を出た男たち(原題)』。

ヨニ役
キム・コッピ


小学生のころから舞台に立ち、子役として多数の映画でキャリアを育む。1997年、フランスのImageAigueTheaterに加わり、世界中の演劇祭に参加した。2002年、パク・チャノク監督の『嫉妬は我が力』でムン・ソングンの娘を演じ、スクリーンにその魅力を放ち注目される。2006年、韓国初の本格的ミュージカル映画といわれ、チョン・ゲス監督が百想芸術大賞新人監督賞を受賞した『三叉路の劇場』では、100倍の難関を乗り越えて主役を射止め、歌って踊ってコミカルな演技も披露し高く評価された。その他の出演作に『チャーミング・ガール』(05)、『シティ・オブ・バイオレンス―相棒―』(06)、『うちにどうして来たの』(09)など。本作で、大鐘賞新人女優賞、青龍映画賞新人女優賞はじめ数々の女優賞を獲得した韓国映画界期待の若手女優。

ヨニの弟ヨンジェ役
イ・ファン


1979年生まれ。少年時代から演技を始め、1995年KBSの「新世代報告書大人たちはわからない」、SBSの「LAアリラン」に出演。その後、大眞大学演劇科に入学し、舞台「ロミオとジュリエット」などシェークスピア劇も演じて実力を固める。2006年、国民的人気を呼んだMBCのドラマ「朱蒙(チュモン)」では後半に登場。朱蒙の息子であるユリ王子の右腕のような友、天涯孤独のサンチョンを演じて人気が急上昇。映画では、イ・ジュンギ、宮﨑あおい共演の日韓合作映画『初雪の恋ヴァージン・スノー』(07)でイ・ジュンギ扮するミンの友達を演じて印象を残した。次回作は『君と私の21世紀(原題)』(リュ・ヒョンギ監督)。他の出演作に、『私の生涯で最も美しい一週間』(05)、『タイフーン』(05)、『キッチン~3人のレシピ~』(09)など。

息もできない

品 番 : BIBF-7976
発売日 : 2010/12/03
価 格 : 3,800円(税抜)
画 面 : 16:9LBビスタサイズ
字 幕 : 日本語字幕
音 声 : 韓国語ドルビーデジタル2.0chステレオ
製作国 : 韓国
製作年 : 2008

特典

■映像特典
インタビュー(ヤン・イクチュン&キム・コッピ)
劇場用予告