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アドリア海から吹く風が頬に冷たい、北イタリア・トリエステ。目立たぬ地味な服に身を包み、長距離バスから降り立った女がひとり。思いつめた表情で街を歩く女は、やがて高級レジデンスに辿り着いた。「どこかの部屋にメイドの仕事はないかしら?」、そう話しかけられた初老の管理人は「生憎ないね」とそっけなく答えたが、再び女の顔を盗み見る。

疲れた顔をしているが、その美しさは隠しようがなかった。「共有部分の掃除ならあるよ」。管理人は女を建物の中に招き入れた。「イレーナよ。よろしく」。「あんた、イタリア人じゃないね。どこから来たのかい?」。仕事場となったレジデンスの向かい側のアパートに部屋を借りると、イレーナは、ほの暗い窓辺に佇み、ある家族が暮らす階を見つめる。

 

「ニュー・シネマ・パラダイス」で世界中を虜にしたイタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、「マレーナ」以来実に6年ぶりに私たちの元に帰ってきました。久々の新作で彼が選んだ題材は、初めて女性を完全主役に据えた、愛と謎に満ちたミステリー。衝撃のオープニングから一瞬も目が離せないスリリングな物語は、観る者をラピリンスに誘い、エンディングに向かって、哀しくも美しい崇高なドラマへと昇華していきます。第一回ローマ国際映画祭プレミア上映後、場内を涙と喝采で包み込み、イタリアのアカデミー賞ともいうべきダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で最多12部門にノミネート!あなたもトルナトーレが紡ぎだす世界に、惑わされ、やがて胸を熱くさせることになるでしょう。

 

トルナトーレが故郷シチリアを離れ、選んだ舞台は、その地に生まれた詩人サバ゛に“棘のある美しざと詠われた、東欧と接する北イタリアの港町トリエステ。2007年アカデミー賞名誉賞を受賞した巨匠エンニオ・モリコーネのエモーショナルで円熟したスコアが、陰影に富んだロケーションと相まって、ミステリアスなムードを盛り上げます。モニカ・ベルッチに続いて、トルナトーレが抜擢したのはロシア出身の実力派女優クニヒニア・ラパポルト。哀しみの中に強さを秘めたヒロインを体当たりで演じています。ミケーレ・プラチド、アンヘラ・モリーナ、マルゲリータ・ブイ他、ョーロッパ映画界屈指の俳優陣が脇を固め、最高のスタッフ、キャストが結集し、トルナトーレの新たなる代表作が、ここに誕生しました。

 
 

情熱的で気性の激しい若い頃と、感情を抑え硬質な美しさが印象的な現在を、同じ女優が演じているとは思えないほど見事に演じ分けたクセニアは、本作で2007年度ダヴィット・ディ・ドナテッロ賞主演女優賞にノミネートされた。

 

イレーナがメイドとして働くアダケル家の夫人役。1971年12月18日ローマ生まれ。1986年から芸能活動を始め、スクリーニングテストを受ける。1995年カルロ・ヴェルドーネ監督・主演の「VIGGI DI NOZZE」の相手役を務め、一躍、人気女優となる。

 

イレーナと心を通わせるアダケル家のひとり娘・テア役。撮影当時5歳にして、繊細で力強い演技を披露。本国公開時、一般観客から愛され、映画評論家たちも「ダコタ・ファニングを超える逸材」と絶賛した。

 

イレーナの忌まわしい過去を象徴する存在"黒カビ"を演じる。本国では映画・テレビで絶大な人気俳優を誇るプラチドが、これまでとはガラリと印象を変え憎々しい悪役に徹し、その真に迫る変身演技ぶりが話題となった。

 
 

——監督とモリ 教えていただけますか。

モリコーネとは脚本を書く前、構想の時点から話をして、一緒に進めています。議論もしますし、時には口論になる事さえあります。お互いに何でも遠慮なく言いあえる関係です。彼と仕事をして20年近くなりますが、私たちの関係は徐々に変わって行き、モリコーネが、彼の仕事に私が侵入することを、徐々に許すようになりました。私が言葉で表現する音楽を、モリコーネは実際に音に変換し、表現することが可能なので、出来上がった作品を聴くと、私はまるで、自分が作曲したのではないかと思う位です。私からすれば、そこが彼の本当に素晴らしいところです。私の無茶な要求にさえ、彼は完璧に応えてくれます。そして仕事を離れても、私にとって数少ない、真の友人でもあります。今回の仕事は私たちにとって、今までの中でも最も複雑で、大変なものでした。映画の中の子守唄も、私たちが作った、この映画のためのオリジナルです。

——子役のクララ・ドッセーナはオーディションで選んだのですか。

本当に幸運でした。60人をオーディションし、その中から選んだのです。「ニュー・シネマ・パラダイス」の時は、1、800人もオー。ディションをしたのですよ。しかもクララは本当に賢くて、物事を察することの出来る子だったので助かりました。彼女の親もしっかりしていて、この作品の意図を理解してくれました。子役を選ぶ時は必ず親のオーディションもします。

——監督にとって女性像を描くことに難しさはなかったのでしょうか。

確かに女性が主人公の映画を撮るのは初めてですが、女性を描く事は以前からしていましたので。私は女性(母親)の中に垣間見る力強さ、特に子供のためなら何でもやる、あらゆる痛ふや辛さにも耐えることが出来る強さに興味がありました。もちろん父親も子供のためTひあればあらゆることに耐えるのですが、やはり母親と父親の強さは本質的に違うと思いますし、母の愛には何ものにも勝る強さがあると思います。いかなる暴力や略奪によっても取り上げることの出来ないものが、愛なのです。

——イレーナ役のクセニアには何か特別な要求をされたのですか。

−クセニア本人は、本当に綺麗な人です。「マレーナ」のモニかベルッチのような、ノヽツと人目を引きつけるような美人ではありませんが、秘めたる美しさを持った綺麗な人なのです。でもこの映画を見た人は、彼女を美人だとは思わないのではないでしょうか。私は撮影が始まる前に彼女に言いました。あなたは美しいけれど、この映画の中ごで常に美しくいて欲しい訳ではないし、美しくは撮らないよ、と。過酷な要求でしたが、彼女は了承してくれました。

——今作は今までの監督の作品と、雰囲気が違うようですが。

元々あまり同じスタイルでは撮らないようにしているのですが、今回は特にスタイルを・強く変えました。スタイルを変えたことで、公開前は不安もありました。イタリアでは公開前にマスコミにあらゆる事を書き立てられ、悪いことばかりが誇張されて広まってしまうので、ローマ映画祭の上映まで、関係者以外には一切見せないように気を遭いました。お陰様でローマ、モスクワ、ニューヨークの観客の反応は良く、安心しました。この映画には、共感出来る部分と出来ない部分がありますが、観客が感じている感情の波は、私にも伝わって来ました。映画が終わると、観客は皆、泣いていたのです。それも「ニュー・シネマ・パラダイス」を見た時に流した涙、いわば気持ちのいい涙とは違う、もっと深ぃところから流す涙を。

——東京にいらしたのは17年振りだそうですが、印象は変わりましたか。

以前に比べて、また更に、モダンな都市になったという印象はありますね。以前に東京に来た時、「ニュー・シネマ・パラダイス」を上映している映画館で手描きのポスターを見たのを覚えています。手描きのポスターがなくなってしまったのは、残念ですね。イタリアでも以前はありましたが、今では全くなくなりました。本当に「ニュー・シネマ・パラダイス」の、あの手描きのポスターが欲しかったんだけど。

——東京に到着したその日に、映画のサントラを40枚近くも購入されたそうですね。

サントラを集めているのですが、イタリアではなかなか手に入りません。東京もそうですが、ロサンジェルスやニューヨークに行った時も、必ず店に行ってチェックしています。以前にロサンジェルスでかなりの枚数を購入し、イタリアに戻って買ったサントラをモリコーネに見せたら、そのうちの2枚は彼自身が作曲したサントラなのに、本人も持っていなくて、2枚は彼にプレゼントしました。今回買ったサントラも、帰ったらモリコーネに見せるつもりです。

——監督にとって映画とは何でしょうか。

私が最も尊敬する映画監督の一人、黒澤明の言葉を引用したいと思います。 第62回アカデミー賞で、特別名誉賞を受賞した黒澤監督は壇上でこうスピーチされました。「この賞に値するかどうか、少し心配です。なぜなら私はまだ映画がよく分かっていないからです。そしてある意味では映画の本質が分からないからこそ、映画に魅力を感じ、惹きつけられるのかも知れません。